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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)665号 判決

控訴人

中村晴生

控訴人

幸福土地建物株式会社

右代表者代表取締役

中村晴生

右両名訴訟代理人弁護士

田中博

被控訴人

坂井茂信

右訴訟代理人弁護士

藤井栄二

右訴訟復代理人弁護士

吉利靖雄

被控訴人

辰巳昌利

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  (主位的)

被控訴人坂井茂信は控訴人中村晴生に対し、金一三〇万円及びこれに対する昭和五七年六月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(予備的)

被控訴人辰巳昌利は控訴人中村晴生に対し、金一三〇万円及びこれに対する昭和五八年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らは連帯して控訴人幸福土地建物株式会社に対し、金一三三万円及びこれに対する昭和五八年一〇月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人辰巳昌利の控訴人中村晴生に対する請求を棄却する。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

6  仮執行の宣言。

二  被控訴人ら

主文同旨。

第二  主張

当事者双方の主張は、原判決七枚目表三、四行目に「原告坂井と被告辰巳との間で」とあるのを「控訴人中村晴生と被控訴人辰巳昌利との間で」と訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、その記載を引用する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一最初に、本件の訴訟形態とその許容性について一言する。

本件の請求のうち、不当利得金返還請求は、主位的に被控訴人坂井茂信を被告とし、予備的に被控訴人辰巳昌利を被告とするものであつて、いわゆる訴えの主観的予備的併合にあたる。

訴えの主観的予備的併合は、一般に、不適法であつて許されないとされる。

しかしながら、訴えの主観的予備的併合が不適法であるとされるのは、予備的被告の訴訟上の地位を不安定、不利益にするからであると解されるから、予備的被告が訴訟上不安定、不利益な地位に置かれていないか、またはその地位を甘受しているような場合には、訴えの主観的予備的併合を不適法とする理由はないものといわなければならない。

これを本件についてみてみるに、本件では、本訴提起の当初、前記不当利得金返還請求とともに、控訴人中村晴生から被控訴人両名に対する損害賠償請求が併合提起され、次いで、控訴人幸福土地建物株式会社から被控訴人両名に対する損害賠償請求訴訟が提起され従前の訴訟に併合されるとともに控訴人中村晴生の右損害賠償請求が取下げられたのであつて、いずれにせよ、被控訴人辰巳昌利としては、控訴人中村晴生又は控訴人幸福土地建物株式会社からの損害賠償請求が併合提起されている関係上、本件訴訟には応訴せざるを得ない立場にあつたし、さればこそ、同被控訴人は、本件訴訟に異議なく応訴していたし、更に、控訴人中村晴生に対し、請負代金請求の反訴まで提起しているのである。

してみると、本件の請求のうちの被控訴人辰巳に対する主観的予備的請求は適法といわなければならない。

二そこで、進んで本案について判断することとなるが、当裁判所も、控訴人らの各請求をいずれも失当として棄却し、被控訴人辰巳昌利の請求を全部正当として認容すべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由が説示するところと同一であるから、その記載を引用する(但し、原判決一五枚目表一一行目「簿らいで」とあるのを「薄らいで」と、一七枚目表一二行目「差仕え」とあるのを「差支え」とそれぞれ訂正する)。

1  控訴人中村晴生は、本件工事代金の中でも屋上物干場解体工事の代金が特に不当に高額である旨主張する。

しかし、原判決の理由説示に加えるに、当審鑑定人森茂樹の鑑定の結果によれば、屋上物干場解体工事には、(1) 作業時間になんらの制限がなく日曜日全日で作業を終了せしめうる場合は、七六万〇六〇〇円、(2) 作業時間が平日、土曜日の午後七時以降に制限される場合は、一〇一万〇六〇〇円の費用を要するものとされることからすると、右工事の費用見積りを一二五万二八〇〇円及び火花その他養生費(本件工事全体分二〇万円の一部)とした本件請負代金(但し、原判決認定のとおり、見積り金額から一七万二七三〇円が減額されている)が、本件請負契約を錯誤又は公序良俗違反により無効ならしめるほど、不当に高額なものであるとは、とうてい認めることができない。

控訴人中村晴生の前掲主張は理由がない。

2  控訴人中村晴生は、また、本件工事中居宅部分の解体工事の対象床面積は実際は四六坪であるのに見積りではそれが五三坪として計算され、そのぶん本件工事代金は不当に高額になつている旨主張する。

しかし、この点は、原判決が詳細に説示するとおり、本件居宅にはこれに付属して階段室及びエレベーターホールがあり、右付属部分をも含めた床面積は約五三坪であり、また、工事代金は、すべての工事部分の坪単価を均一なものとみてこれに工事面積を乗じて算出されるものではなく、工事に必要な人夫の延べ人員や機械の使用料等をもとに全体としての工事費用が算出され、ただ見積書等にはこれを工事面積で除して算出した坪単価に工事面積を乗じて総工事費用が算出されたような形式で書かれることがあるにすぎないのであるから、現実に解体された本件居宅の床面積が四六坪であり前記階段室及びエレベーターホールについては壁、床及び天井の改装の下地調整作業が行われたにとどまつたとしても、工事面積を五三坪とした本件工事代金がそれゆえに不当に高額なものであるなどということはできない。

控訴人中村晴生の前掲主張も理由がない。

3  他に本件工事の請負契約につき控訴人中村晴生に要素の錯誤があつたとか右契約が公序良俗に違反するとかの事実を認めるに足りる証拠はない。

三よつて、原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小木曽 競 裁判官露木靖郎 裁判官下司正明)

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